マーババービーのこと

私は欲しいものがあるから、と

彼というほどの付き合いではない男性を連れデパートへ行った。

欲しいものというのは人形だ。

とうに人形遊びを卒業していたが、その当時タカラバービーが

ジェニーと名前を変え、マーババービーも発売されて

ファッションドールがやたら数出ていたのでちょっと買ってみようと思ったのだ。

洒落のつもりもあった。

マーババービーを買うつもりだった。

デパートのおもちゃ売り場に設けられた子供が遊ぶコーナーには

よくジェニーとマーババービーが置かれていた。

少しいじってみたらバービーは首と腰と足の付け根の可動範囲が広い。

ジェニーよりもポージングが自在な分楽しいに違いないと思ったのだ。

あまり顔の好みは考えなかった。

なんというかあくまで「人形が欲しい」であり

「可愛い人形が欲しい」ではなかった気がする。

服を作るなんて考えもしなかった。

いやちらっとは思ったがそんなこと無理だと思い込んでいた。

ただ小さい頃から人形が好きで、理想の人形が欲しいという頭はあった。

だがそれはジェニーでもマーババービーでもなかった。

エクセリーナやマリーンの存在を知るのはまだまだ先のことだった。

私はおもちゃ売り場で人形を選び始めた。

ちょうどジェニーズクラブが出た時だったので

棚にはたくさんの種類の人形が並んでいた。

ああ、こんなにあるんだ。

でもジェニーの友達がジェニーより可愛いわけがないじゃん。

だって主役より目立つ脇役を出すとは思えない。

フローラ、マリーン、シーナ…

私はシーナを手に取った。

そこで思い込みが確信に変わった。

長めの金髪、茶色い目

特徴だけを並べるとジェニーとあまり変わらないうえに地味な顔立ち、

やっぱりジェニーを地味にした感じだ、他も同じに違いない。

ジェニーとマーババービーの区別すらろくにつかなかった私に

シーナの魅力がわからなかったのも無理はない。

隣の棚のマリーンは見ることすらしなかった。

おバカ…。

予定通りバービーを買った。

黒いパーティドレスのバービーだ。

シティコレクションというやつだったかもしれないが憶えていない。

それはそれで満足したものの、しばらく経つとようやく

顔立ちがカジュアル向けすぎてフリフリが似合わないことに気付いた。

それでもやっぱりジェニーとそう変わらない顔だと思い込んでいた気がする。

画像で見ると所詮マーババービーって感じだが実物は非常に可愛い。

思い入れがあるからだろうか。

この顔少なくとも五人は持っているが、この子がたぶん一番好きだ。

国産と韓国製があるがこれは国産。