2013年5月16日木曜日

リカちゃんがしゃべった日


そのリカちゃんは黒い別珍のドレスで、頭にも黒いリボンを付けていた。
アッシュブロンドでやや長めのボブがなんとも上品で、
売り場で見るたびについ手に取ってしまっていた。





だがそれに限らずリカちゃんを買うつもりはなかった。


私はジェニー派。
服の互換性がない人形を持つのがなんとなくいやだった。


リカちゃんは好みじゃない、と小さい頃思っていたせいもある。
それがたぶん一番大きい理由だ。
あの頃とは顔が違うと頭ではわかっている。


そうだもう一つあった。
もし買うなら絶対コレ、と決めていたリカちゃんがあったのだ。
だがグズグズしている間に同じものを妹が買ってしまい、
同じものを持つのもなんだしなーと買うのをやめてしまったことがあった。


それは当時よく行っていたスーパーに置いてあったプティットドールリカちゃん。
少し前に出たものなので置いている店舗は既にほとんどなく、
気になりながらも引っ越してしまいそのまま。
たまたま別のお店で妹が見つけ買ってきた。





可愛いんだけどね~。」
そう言って元の場所に戻すのがいつものことになっていた。


またその売り場を通ってまたそのリカちゃんを手に取った時妹が言った。
「買ってあげようか?」
いつも気になって仕方なかいくせにいらないと言う私を見兼ねたらしい。
「その代わり…」


クリスマスが近かった。







「リカちゃんイラネ」だったはずが手に入ってしまうとふっきれたというか、
その後リカちゃんサイズも増殖していくこととなる。


だがうっかり承諾した「妹が出した交換条件」を満たすのはかなり大変だった。
それはジェニーサイズのクリスマス用ドレス10着。
妹もすでにけっこうな数のジェニー&フレンドを所有していたのだ。


当時の技術はものすごく未熟だったとはいえ今考えると割に合わなかったかもしれない。
自分で買ったほうが安いやいい、リカちゃんに目覚めるきっかけになったのだから。





箱から出したリカちゃんの髪のゴムで留めてあった跡が気になった。
なのでジェニー誌にあった跡を綺麗に直す方法をやってみることにした。


熱いお湯をかけて梳かすだけでいいそうな。
私は湯沸かし器を一番高温になるようにしてお湯を出し、
水平に持ったリカちゃんの後ろの髪にお湯をかけた。


するっとクセが取れ綺麗なストレートになるはずだった。






リカちゃんの髪はお湯がかかって後ろになびいた形のまま
ピキーッと固まってしまった。


あれ?
なんか予想と違うような、もう一度やってみよう。


ますますひどく固まった。


詳しい人ならわかるだろう。
このリカちゃんはプティットアンティーク、髪がトヨカロンだったのだ。


だが当時の私は髪の材質が違うことや、その髪が熱に弱く
熱湯に漬けたりしたら硬化してしまうことなどまったく知らなかった。







リカちゃんがぁぁーー!!







魂が抜けてその場にへたり込んだ私に、リカちゃんが天使のような声で言った。


「髪がどうなろうとリカはリカよ。
私は気にしないわ。あなたも気にしないで。」


言ったような気がしたんだよいいんだよ。






茫然としていると電話が鳴った。妹からだった。
思わず「死にたい…」と呟くと妹は「リカちゃんに何があった!」
…見抜かれとる。


リカちゃんキャッスルに行った際も連れていき再植毛できないものか相談したが、
当時はまだリトファはなく(今もないけど)断られた。


髪の傷みが目立たないようボンネットを作って被せていたが
ついに自力での植毛を決意。


その頃は今のように植毛用ヘアなんて売ってなかったが
手芸屋さんのカントリードールコーナーでいい色のサランっぽい髪を見付けたのだ。


クルクルしているのでどうなるか心配だったが
植えてお湯パーマをかけたら見事に可愛くなった。






トヨカロンのようにサラサラではないので敢えて全然違う髪型にした。
当初はクルクルのままだったが、ボリュウムありすぎて扱いづらかったので
またお湯パーマをかけて縦ロール。





今はもう一人プティットアンティークリカちゃんがいる。
友達がリサイクルショップで見つけたものでお願いして譲ってもらった。






その時も彼女の希望でドレスと交換だった。
大きい人形用で、やっぱりちょっと大変だったが、
気に入ってもらえたようでよかった。






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