2013年5月18日土曜日

オキサキサマ


小さい頃大好きだった人形がある。
お向かいの子が忘れていったらしい小さな赤ちゃんの人形だ。


従姉が持っている初代か二代目のミキマキがごつく見えるほど小さく
いたずらっぽい目とうにゅっとした口、貝殻みたいな手のひらが愛らしい。






名前は「オキサキサマ」。
私はお妃様というのはお姫様よりも女王様よりも王様よりも偉いのだと思い込んでいたのだ。
バカなガキだった。


ティッシュを巻き付けてドレスにしたりアパートにあった共同の水場の前に
洗面器を持ってきて水浴びごっこをしたりした。


同じアパートに住む従姉は遊んでいる私の前に仁王立ちし
「返さないといけないんだからね!」とキツく言い放った。
私は俯いて小さく「うん…」と返事したもののけっきょくそのまま。
お向かいの子からは何も言われなかったので、オキサキサマは
本当にその子のものだったのかわからないままになってしまった。


本当に可愛くて可愛くてしかたなかったのにオキサキサマはいつの間にかいなくなってしまった。
きっと母に捨てられてしまったのだろう。






大人になったある日、私はオキサキサマと再会した。


うちに遊びに来た友達と一緒に近所のおもちゃ屋さんへ行った時だった。
プリティちいちゃんニューホームセットデラックスと書かれた箱を見付けた。
懐かしいチーちゃんと家具のセットだ。


箱の側面を見るとなんとセット内容にあのオキサキサマも含まれているではないか!
そう、赤ちゃんの人形はチーちゃんの妹だったのだ。
これは買うしかない。


ところがこんな時に限って財布を持っていない。
散歩のつもりだったし、まさかこんな掘り出し物があるとは思わなかったのだ。


よく行くお店なので今までそれの存在に気付かなかったとは考えにくい。
そのお店は時々倉庫から商品を出して補充していたらしいので
おそらくそれもそうだったのだろう。





まぁホントに近所なのですぐにまた行って、二つあった箱を両方買って帰った。


当時はまだオークションは一般的ではなかったが
いつか手放す機会があるかもしれないという思いもあったし
いわゆる遊び用保存用という頭もあった。
けっきょく勿体なくて片方はそのまま保存している。




一つはすぐに箱から出して愛でている。
相変わらず可愛らしい。





難点は名前がないことと小さすぎて服作りが大変なため着たきりであること。
そうか、名前がないんだ。


商品名は「ちいちゃんの赤ちゃん」だからして。


名前、付けたほうがいいんだろうか?
オキサキサマじゃなんだし、う~ん…。







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